[本文引用]
本を創る立場になると、気になる事が沢山出てくる。
本当に自分の読んでもらえる読者がいるのだろうか?こんなこと書いて、批判を浴びないか?
売れなかったらどうしよう。
まあ、何事もそうだが、処女作というのは特に未知の世界で、不安や心配も頭をよぎる。私も20年以上前になるが、人生で初めて本を創った時は、今にしてみれば杞憂ばかりのことで、色々と考え過ぎたこともある。
そんな中で、オーソドックスな話として、誰に読んでもらいたいかという意思表示と言うか、伝えたい相手を著者がどう具体的にイメージしているかは大切なポイントだ。
実際、これは本の中身に大きくかかわる。
著者になると出版会社の編集長や専門家の方々との打ち合わせが始まる。そんな時、決まって、読者対象をどう考えていますか?から始まることが多い。
これは、セミナーなどの講演とも似ている。
例えば、当社では、セミナーの企画・運営も国内外で数多く手掛けてきた。全体のテーマを決めて、講師を決めていく訳だが、講師を依頼する時は、一般的には、テーマをこちらから出す。
もちろん、お任せと言うケースもあるが、やはり、開催者がどういうテーマで講演会やセミナーを開催したいかによって、講師も内容をアレンジしていただける。最初の依頼したテーマや主旨があわなければ、講師としての登壇は成立しないことも稀にある。
こんな風にして、セミナーの講師をアサインさせていただくのだが、何人かに一人は、どんな人が参加されますか?と訊ねる方もいらっしゃる。
今どきは、情報セキュリティーなどの問題で、参加者リストを要求するところは激減したが、一昔前だったら、講師に対して、参加者リストが平気で配られたりしていた。
もちろん、これも一概には言えないが、参加者名簿を配ることが前提の講演会などもあるが、一般的には、参加者の概要的な事は把握したとしても、一人ずつのプロフィールを知ったうえで、講師が話をするという事は基本的にはない。
ただ、やはり、多いのは、経営者ですか、購買責任者ですか、一般社員ですかというぐらいの大枠の確認はする。
私も、講演などで話することもあるが、流石に、聴講者、オンラインであれば、視聴者がどんな人が聴く可能性があるかは想定してしゃべる。
ところが、本と、一般的な会場セミナーでは決定的な違いがある。本を出版すると言うことは、ひとたび、本が出版されると、紙の本であろうと電子の本であろうと、いつどこで誰が読むかは分からない。
もちろん、著者としては購入してくれることが望ましいが、本には友人同士貸し借りもあるし、図書館で借りて読むこともある。理屈上では、本は、世の中の誰が手にして読むかは分からないのである。
ただ、出版会社としては、読者対象は、絞りたがる。これは2つの観点があると思う。
一つは、セミナー講師と同じような事例で、流石に伝えたい内容のミスマッチでは、本の価値は減衰する。だから、自分の書いた内容をどんな人に読んで欲しいかのイメージは大切である。
もう一つは、本をどうやって売るか、マーケティングと販売戦略の世界である。会社員に売るのと、経営者に売るのでは売り方や露出の仕方が違う。ビジネス書として売るのか一般教養の本として売るのかでも大分違う。
こういうオーソドックスなことは押さえておく必要はあるが、私がこれから本を書く人に提唱したいのは、世の中の誰がいつ読むか分からないと考えて、本を創ることである。
読者対象というのは大事だが、それは思い込みである可能性は高い。
私もかつて想定した読者以外から、思わず反響を頂いたことは多々ある。それは未知との遭遇の話である。
もう一つは、記録と言う意味で、100年先、1000年先に残す、伝える意識をもち楽しん本を創ることである。
以上