[本文引用]
企業における情報共有化の実現は、もはや永遠の課題だろう。
もちろん、情報共有化は目的があって初めて意味がある。しかし、企業の情報共有化は、油断するとすぐに目的化してしまう。
つまり、情報共有することが目的になってしまい、余計な労力や仕事を増大させることになる。昔、グループウェアが流行り出した20年以上前、一番の取り組みは、スケジュールの共有だった。ほどなく、こういう社長が話題になった。
その社長は、全社員にご自身のスケジュールを共有、つまり、公開したのだ。社員が200名ほどの会社でだ。情報共有化が目的化した典型だろう。数名の社員ならともかく、社員数が多くなると、そもそも、社長との仕事上の接点はない。関係する人は社内でも限られている。必要以上のこういったスケジュールの共有は、余計な誤解を生むか、話題作りにしかならない。
だが、実際に、経営者といえども、こういう間違をしてしまうのがIT活用である。ITをとにかく使う事ばかりに思考が行ってしまった典型的なパターンだ。
これと、似たようなことは枚挙にいとまがないが、一つだけ追加する。
それは、eメールのccによる同報だ。
外部の人とやり取りを繰り返していると、CCが多すぎたり、途中で追加されたりしていることがある。
当然、情報共有をしておこうと言う意図だが、これには幾つかの落とし穴がある。
一つは、CCに同報された人の、当事者意識の問題だ。どうしても、CCは当事者意識が薄れる。そうすると、誤解や誤認、他人ごと感も自然と生まれる。同報しなければ、良かったというケースだらけである。CCはよっぽど、慎重に考えないといけないのである。
情報共有の重要な目的の一つに、判断基準の共有がある。
組織のトップから始まり、部門の長、プロジェクトマネージャーなど、組織には様々な責任者が複合的に活動している。組織としてチームとして成果を出すためには、権限委譲とセットになった判断基準の共有が必要だ。
典型的な営業の現場のシーンを考えてみよう。
営業現場で、自社の営業パーソンが顧客に対して、クロージングの段階だ。顧客からはもう一押しの値引きとサービスを求められている。彼は、まだ、営業歴5年。それなりの成績は収めているが、まだ、自分で値引きなどを決定できる権限がない。
もちろん、会社としては、意図があってのことだ。こういう時に、営業の彼はどうするか?
“持ち帰って、返事します。”あるいは、“少しお待ちください。上司に掛け合います。”
こんなシーンが目に浮かぶ。こういう駆け引きとしての場面も営業にはよくあるが・・・
一方で、単純に値引き幅や値引き額を、事前に共有できていなかっただけとしたら、どうだろうか。もったいないことである。若く見える営業パーソンが、最終決定まで自分でできる人と分かった方が、顧客の信頼は増大する。
この事例だと小さな意思決定であるが、経営と言うのは、様々な意思決定の連続である。社長たるトップが現場で発生する様々な決定や判断をしていては、本末転倒である。
現場の責任者が判断することは沢山ある。それを事前にしかるべき手段で共有しておくことが、重要なのは言うまでもない。これが判断基準の共有である。
これは、スケジュールを共有するようなレベルとは違い、しっかりした制度設計から社員教育、PDCAを徹底的に回してこそ、実現できることである。それができれば、この部分は、近い将来AI君にも一部は任せることができるのである。
以上