[本文引用]
今、技能研修制度の改革に関するニュースが喧しい。
実際にこの制度を長年活用してきた関係者にとっても、悩ましい課題である。
こういうメディアの取り上げ方を見ても、ようやく日本も国際的な批判に反応しようとしていることが分かる。
技能研修制度は、そもそも、日本の労働力不足を補うために考案した日本独特の制度だ。長年にわたって、制度上では、技能研修、実態は労働であった。
私もベトナムなどの現地で、この制度における日本の実態は、元技能研修生から色々と教えてもらった。ベトナムの現地法人の社員も20年ほど前は、日本語を話しできると言えば、元技能研修生だった。その頃からすれば、改革が始まるのにずいぶん時間がかかったと言うのが正直なところであるが、ふと、想うことがある。
私たちの世代(60代以上)は、昔の日本を体験しているという意味で、ある程度世の中の実態を知っていると思う。一方で、今の若い人達、子供達は、労働力と言う観点で日本と言う経済の仕組みがどうなっているかはあまり知らない。想像している以上に、日本の経済を支えているのが、技能研修生として日本で働いている人達であるということを知らない人が多いのではないか。
3Kと揶揄される職種から若者が遠ざかっていく日本。私も記憶があいまいなところがあるが、20年、30年前からこの傾向があったように思う。そして、人口が減少する中で、ますます拍車がかかった。そして、あたりまえのように、こういう労働は技能研修生や留学生のアルバイトがするようになった。
ここ10年ぐらいは、居酒屋でもコンビニでもベトナム人やネパール人が接客をすることが多いので、サービス業においては、変化を私たちは感じることができる。
一方、農業や製造業、建設業、物流関係など・・一般的には、私たちが接することが少ない仕事で、日本を支えている人たちが沢山いるのが事実だ。
常に、物事には功罪の両面がある。
実際に日本に技能研修生で来て、頑張って我慢して、お金を稼ぎ、日本の事が好きになり、日本との関係性のビジネスを始めている起業家も沢山いる。大成功に近づいているような経営者もいる。一方で、残念ながら日本の事を嫌いになってしまった人もいる。来日前に抱いていた日本人、日本社会に対する憧れとリスペクトは消え去ってしまう様なつらい経験をした人も実際に多い。また、世界からは、搾取労働として批判を浴びてきた。
極端に言えば、日本は、労働力不足を建前の研修制度という傘の下で、上手に新興国の安価な労働で補ってきた。こう言われても、この構図と事実は否定がしようがない。だからと言って、受け入れ先の中小零細企業が必ずしも悪いわけではない。長年、それが日本の社会の労働の構図、日本の経済の特徴であったのである。
最近のニュースを見ると、技能研修制度の改革案を目にすることが多くなった。先日は、大きな改革の目玉として、転職の自由が挙げられていた。
いかにも、一般受けしそうな話である。
私は、正直、現場の実態を知っているのかということを言いたい。
心配でもある。
一般のビジネスの社会であれば、転職は自由である。私も何回も転職した。これは、ベトナムも、他のたいていの国では、転職は自由である。
だからと言って、いきなり、日本で働く技能研修生を1年就労後に転職は自由として良いのか?
もっと、深く慎重に現場の実態に適応するような制度を作ってほしいと思う。
中小や農業の経営者は、真面目に、技能研修生の未来の事を考え、我が子と接するように、頑張ってケアをしている人たちも多い。しかも、日本に来る前から、一生懸命関係者が日本語などを教えている。実際にこういう事を知っていると、先行投資的に苦労してきた人たちが損をする可能性がある。
自由と言うのは確かに必要だが、その一方で、人材仲介人が日本にも沢山いて、その人たちは、人を転職させ、その紹介フィーを生業にする。また、新興国の人たちも、目先の報酬に振られる。こういう環境の中で、短絡的な転職の自由は新しい問題を生む。
今は、DX時代。本気で新興国の人材との共生をする国に返信するのであれば、国がデータベース管理をして、中途半端な転職仲介会社が必要のない、公平で健全なマッチングプラットフォームを作る必要があると思っている。
以上