[本文引用]
私は、約14年前に、IT支援サイトで人気を博していた
「SmallBiz」(日経BP社運営)のコラムを担当していた。
同時に情報誌「日経IT21」(日経BP社)にも連載を持っていた。
いずれも、当時の中小企業のIT導入における現場の実態、
IT導入の失敗事例や原因、ITサービス会社の問題など、
いわゆる「落とし穴」を発信し続けた。
例えば、オーダーメイドで自分にぴったりと合ったサイズの
洋服ばかりを選ぶと当然高価な買い物になる。
安価で質の良い既製品が豊富に揃っている昨今、
その中から自分にあったものを選ぶことが大切。
そのためには、既製品が着用できるようダイエットすることも、
時には必要だとも説明してきた。
つまり、IT化をする前に、業務の内容や業務プロセスを
見直すべきだということである。それをせずに、自分の業務にあった
IT導入を求めることは、業務の改善や業務の生産性向上には
つながらない。まず、現状分析をし、個人最適ばかりに固執
するのではなく、全体最適の中からどうあるべきかを判断していく
作業が重要なのである。
ここで、当時の中小企業で象徴的だったふたつの失敗例を紹介しよう。
「ふと気がつくと、企業内のあちこちで、同じようなExcelファイルが点在」
当時この事象は、いつも社員が忙しそうにしている中小企業で特に多かった。
社員は皆画面に向かって黙々と作業をしている、残業も多い。
そこで業務分析をすると驚愕の事実が発覚する。
似て非なるExcelファイルが多数存在している。
誰ひとりとしてテンプレートを作成し、それを関係者と共有するという
発想がなかったのだ。同じような会議資料やプレゼン資料が存在する。
ありとあらゆるExcelファイルをそれぞれの社員が、
すべて一から作成していたのだ。社員ひとりひとりの作業を
重ねあわせるとどれだけ無駄な時間とコストを費やしているか……
そこに考えがおよばないのである。その結果、企業内に多くの
Excelファイルが作成され、いざというときに利用したい
最新ファイルがどれかすらもわからなくなっていた。
ファイル名称の規則や電子ファイルの保存先に関するルールも
なかったのだから仕方がない。
Excelは確かに便利なツールであるが、無駄を生むツールでもある。
私はこれを「Excelの功罪」と呼んでいる。
「システム導入後、要望事項が次から次に出てくる……」
当時、システムを導入後に次から次に要望が出てくるケースが
非常に多かった。システム導入に向けて、ITサービス会社との
打ち合せの回数を重ねている。ITサービス会社から基本設計書や
詳細設計書も納品されている。
打ち合わせや設計書などの納品は、つつがなく粛々と進行する。
そして、ようやくシステム導入に漕ぎ着けた後に要望が噴出するのだ。
こんな機能がほしい、操作性が悪い、この項目が足りない、
この順番で表示してほしいなどなど。
一体何のために、打ち合わせを重ね、何のために設計書が
納品されたのか。ITサービス会社に任せっきりで安心していたか、
真剣に検討していないかのいずれかだろう。
こういったケースでは、次々と要望を出す側は、実際に画面や
帳票を見ないと、紙の資料ではイメージがわからないと
主張するのがほとんどだ。
確かにそれは一理ある。わからないでもない。
それならば、「イメージがわからない、わかるようにしてほしい」
とITサービス会社に打ち合わせや設計段階で要求するべきなのである。
事前に疑問点を徹底的につぶしていけばこんなことにはならないのだ。
どうだろうか?一度自社に照らして考えてほしい。
中小企業のIT導入や活用に関する落とし穴はこの当時から
なんら変わっていない。
参考までに、図1 -4に陥りやすい落とし穴をまとめてみた。
もし、思い当たる節があるようなら、最新技術を導入しようとも、
うまくいくはずがない。
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(近藤 昇『ICTとアナログ力を駆使して中小企業を変革する』
第1章ICTに振りまわされ続ける経営者
-中小企業のICT活用の落とし穴 より転載)