[本文引用]
いまやインターネットを利用していない人や企業はほとんどないであろう。
インターネットによる情報収集、電子メールが当たり前に行われている。
Amazonの勃興により、EC、いわゆる電子商取引が広く普及し、
追随するように、楽天のようなモール型ECサービスも登場した。
このような流れの中でインターネットがサービスを変えるとよく言われるが、
私は今でも懐疑的だ。そのことを、私は身をもって体験しているからだ。
当社は設立間もなく、「おさがりの会」という子供服、ベビー用品の
リサイクル事業をはじめた。チラシをポスティングし、会員を募り、
会員数は半年で1000名を超えた。
当時は、買い取った商品の写真をポラロイドカメラで撮り、
アルバムを制作し、会員に見せて注文をもらっていた。
そのときに発生したのが、創業の翌年となる1995年1月の
阪神大震災である。震災で神戸周辺の物流インフラが壊滅状態に陥った。
商品を運べず、私はやむなくおさがりの会を休止した。
インターネットが世にでる前のことである。
今のようなインターネット社会であれば、間違いなくECサイト上で
商品を売買したはずだ。時代に先駆けてECサイトを構築し、
会員を増やし続けることができたら、今では大成功をおさめていたの
ではないかと経営をはじめた頃は思ったものだ。
しかし、20年企業経営をしてきた今となってはそうは思わない。
ECの本質をよく考えると、物流網が整備され機能しなければ、
成立しないということがわかるからだ。
EC市場は確かに拡大している。しかし、改めて考えてほしい。
Amazonにしても楽天にしてもECサイトは商品を運ぶ物流に
支えられているのだ。もっというと、荷物を運搬するドライバーの
ひとりひとりによって支えられているのだ。
こういった人たちがいなければ、ECのビジネスモデルは成立しない。
このことに企業経営者も一般の人も気づかないことが多い(図2-1 -1参照)。
それまでは、顧客が店に足を運び、商品を購入して自分で持ち帰っていた。
今は顧客は購入したい商品を決めると、スマートフォンで一番安い店を
探し注文する。すると自宅に商品が届けられる。
さらに最先端をいくのが、宅配ロッカーサービス。
ECサイトで注文した商品を駅や郵便局に設けられた
専用のロッカーで受け取るというもので、自宅で商品が届くのを待つ必要がない。
注文した人が、都合の良いときに専用ロッカーに取りに行けばよいのだ。
いずれにしてもこれらのサービスは購入した商品を自分で運んでいたものを、
物流会社に商品を運んでもらうという、アナログの代行サービスの
一種である。そして、この需要が増え続けている。
図2 -1 -2のグラフを見てもらえればわかるが、
宅配需要は伸び続けているのである。
当社が、拠点を構えるベトナムをはじめとした東南アジアの
ECビジネスを考えてみると、そのことがさらに理解できるはずだ。
これらの国ではECサイトは簡単に構築できる。
しかし、肝心の物流基盤はいまだ未整備のままだ。
そのため日本のようなECビジネスは成立しない。
だからこそ、日本の物流企業にビジネスチャンスが存在する。
日本から東南アジアに乗り込み、物流網を構築できると、
EC需要をとりこみ、商品配送を一手に請け負うことができる
チャンスが目前に広がっているのだ。
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(近藤 昇『ICTとアナログ力を駆使して中小企業を変革する』
第2章 アナログとICTの両立を考える
-ECだけでサービスは成り立たない より転載)