[本文引用]
私は、15年前に「e -NAME(イーネーム)カード」というしくみを考案し、
ビジネスモデル特許申請をしようとしたことがある。
訳あってそれは断念した。企業活動をする上で、
企業全体が保有する名刺の情報が重要な財産だと考えていた。
その名刺を蓄積し、有効に活用するしくみがあれば、
多くの企業で重宝されると考えていた。
顧客とのリレーション、パートナーやステークホルダーとのリレーション、
これらのすべてが人と人との関係性の上に成立する。
その情報の根幹となるのが名刺である。だから、人と人が出会い、名刺交換を行う。
そして、相手との距離を埋めるために会話をする。
名刺交換という行為と、そこから関係性が構築されることに意味がある。
これは日本だけのことではない。
新興国の多い東南アジアでも名刺交換から、
その人との交流が始まることは変わらない。
たまに交流会やセミナーに参加すると、
次から次に名刺を配って回っている人に遭遇する。
それでは、相手に何の印象も残らない、まったく意味のないことである。
それよりも、たまたま近くになった見ず知らずの左右の人と
じっくり話をする方が、はるかに後々深い関係性が構築される。
私は「袖触り合うも多生の縁」が大切だと考えている。
だから、最近登場した、会わずとも電子上で名刺交換するという
システムに対してはまったく意味のない行為だと思っている。
直接会うこと、そこで実りのある会話をすることを重視すべきである。
大切なのはアナログの部分である。
名刺情報をもとにして顧客データベースを生成し、
顧客情報をもとに一斉に情報を配信する。
このようなシステム利用ができる本格的クラウドサービスが存在する。
Sansanである。この数年シェアナンバーワンを誇っている。
30年も働き続けると名刺の数が膨大になる。
まして、私は東南アジアに頻繁にでかける。
東南アジアの人も会えば名刺交換をする。
そのため、海外の人の名刺も多くなる。当然、日本語ではない。
その膨大な名刺の束から目的の人を探し出すことは大変だ。
海外ビジネスにも言葉の壁を越えた名刺管理システムが必要となる。
そんなツールがあればその効果は絶大だ。
私は、「e-NAMEカード」では次のような機能を構想していた。
簡潔に書く。とにかく、交換した名刺データを電子化するのがまず手間である。
これを自動化しようとした。つまり、いただいた名刺の識別タグを頼りに、
このシステムにアクセスすると自動的に自分の名刺管理データベースに
ダウンロードできる。その際に、相手の承認を得る。
それで情報の安全性や多様性を確保する。
また、相手の名刺に変更(昇進、転籍、退職など)があった場合は、
自動的に自分の名刺管理データーベースが修正される。
登録と変更の手間を省力化する考えだった。
さらに、印刷会社との連動も併せてダイナミックな活用を考えていた。
今はクラウドの時代。ICTでの名刺管理機能としては、もっと先進的な
ダイナミックなサービスがこれからも生まれてくると思う。
ただし、名刺活用の部分においてはICTに頼らないことだ。
名刺交換から人との関係性を構築するアナログでの行為をきちんと行う。
一方で、効率性を高めメンテナンス性を高めることに利用できるICTは
徹底的に活用する。その切り分けが大切なのである。
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(近藤 昇『ICTとアナログ力を駆使して中小企業を変革する』
第2章 アナログとICTの両立を考える
-名刺交換とオンラインを考える より転載)