[本文引用]
ICTを活用すれば、働き方を変えることができることはこれまでに説明してきた。
その典型がまさにテレワークであり、PC、スマートフォン、タブレットなどと
インターネットの環境さえ整備すれば、自宅にいながら業務を進めることができる。
そのことにより、地方活性化、女性活用、高齢者活用なども可能になるのだ。
通勤にかかる疲労、ストレス、時間の無駄を排除でき、
集中して業務が進められるので、業務の生産性や柔軟性、
俊敏さを高めることもできる。
しかし、実現には克服するべき大切なポイントがある。
それは人の問題であり、つまりはアナログが鍵を握る。
そのことについて、説明していきたい。
当社では、拠点があるベトナムをはじめ、東南アジアの国々に対して
「日本の経営を学ぶ」セミナーを開催している。
そのセミナーでは「約束を守る、時間を守る、勤勉である」
といった日本のビジネスパーソンの特徴を説明している。
そのことを説明する例えとして、以下のように伝える。
―日本のビジネスパーソンは人に見られていなくてもやるべきことをする。
―東南アジア諸国では人に見られていなければ、手を抜く、さぼることが多い。
つまり自律していないということだ。
この比較を説明するとわかりやすいのか、皆に納得してもらえる。
だが、日本のビジネスパーソン全員が本当に自律しているのか。
日本と東南アジア諸国を対比した場合の傾向として、
日本人は自律していると説明はしているが全員がそうとは限らない。
私自身は人は性弱説でとらえるべきだと思っている。
本質的なものは、人類皆共通だ。人間誰しも怠け者だし、楽をしたい。
ともすれば、楽なほうに流れるものだ。
そこを、それぞれの職業倫理観や自律心で歯止めをかける必要があるが、
ハードルは高い。実はテレワークの大切なポイントがこの点なのだ。
誰にも見られていない状況で仕事をするのだから、
自分で自分をしっかりとコントロールできる人でないと
このスタイルでの仕事はできない。
自宅の冷蔵庫をついつい開けて、飲料水を飲みながら
ほっと一息する時間が長くなったり、
ついついテレビのリモコンに手を伸ばしてしまう。
人間であれば、そんな場面もあるだろう。
しかし、それでは業務効率が上がるどころか、かえって低下する。
企業としてはその人の本質をしっかりと見極めた上で、
テレワークを許容する必要があるのだ。
また、ひとりで業務を進めるからこそ、今まで以上に
報・連・相が大切になってくる。
在宅でひとりで仕事する環境とはいえ、
チームであるいは組織で業務成果をあげないといけないことには
なんら変わりがない。
だからこそ、相手が求めているタイミングで、きちんと報・連・相をして、
他のチームメンバーとのコミュニケーションを
積極的にとることが求められるのだ。
もうひとつ重要なことがある。
それは、情報セキュリティである。
自宅で作業をするからこそ、情報セキュリティには十分留意が必要だ。
気が緩んで、操作ミスをしたり、家族だからと機密情報を漏らすと
大きなトラブルを引き起こしかねない。
企業側もテレワーク導入前に、就業規定や人事考課制度の改良が必要となる。
テレワークはICT活用部分よりも、むしろ人間系の部分、
つまりアナログが肝要であることをよく心しておいてもらいたい。
――――――――――――――――――――――
(近藤 昇 著 2015年9月30日発刊
『ICTとアナログ力を駆使して中小企業を変革する』
第3章 パソコンもオフィスも不要な時代
-テレワークの重要ポイント より転載)