[本文引用]
「記憶より記録」
当社が創業以来、社内の人材教育の場や顧客支援の場で
常に言い続けてきたことだ。新入社員で入社してきた際には、
まず鍛えるべきは「書く力」「メモする力」と伝えている。
記録に残すことにより、記憶に頼った仕事から脱却すべく、
このような教育方針で進めてきた。
最近になって、ICTの世界は、この「記録」と「記憶」の
利便性を究極に高めたツールが数多く登場している。
その筆頭格が「Evernote」である。私自身、この「Eve
rnote」を知ったとき、我が意を得た思いがした。
冒頭の「記憶より記録」を効率よく実現できるからである。
「Evernote」は手軽なメモ機能を提供するクラウドサービスである。
サービス開始当時と比べ、現在では機能も豊富に用意されるようになった。
ウェブサイトはもちろん、写真や動画までも簡単に収集できる。
例えば、Evernoteのカメラ機能を使えば、撮影した画像は
自動的にアプリ内に保存される。
また、ウェブサイトを閲覧しているときに、ボタンひとつでそのまま
クリッピングすることもできる。PDFなどのデータもそのまま
転送しておけば、後からいつでも閲覧可能であり、PDFファイルの
テキスト検索もできる。最近では日本経済新聞の電子版も
Evernote連携機能を提供しはじめた。関心のある記事は
ボタンひとつでEvernoteに保存できる。
ここで、私のアイデアの作り方を披露する。
まずは気になる情報を収集しためる。情報を収集し続けていると、
情報に対するセンサーが働くようになり、多くの情報が
収集できるようになる。そして収集した情報を整理する。
そして、忘れる。それを繰り返していると、ふと新しいアイデアが
浮かぶのである。
Evernoteは、気になる情報をためるための外部記憶装置
として活用できる、非常に便利なツールである。
記憶するのではなく、記録できるのである。気になることごとに
情報をカテゴライズすれば、整理もしやすいし、溜めた情報の検索性も高い。
ここまでできて、しかも無料で使える。こんな便利なツールが
無料で使えるのだから、ユーザーにしてみたら大変嬉しい限りだ。
ただし、無料というのは正しくいうと違う。
EvernoteもSNSと同じように、儲けるためのしくみを
構築しているのだ。それが、「フリーミアム」だ。
「なぜ、こんなツールやソフトが無料なのだろう?」
誰しも1度は疑問に思ったことがあるだろう。
世の中には数多くの無料ツール&ソフトが氾濫している。
それらの多くがこの「フリーミアム」を採用している。
簡単に説明すると、数%の有料利用者が無料利用者を支える
モデルである。無料でツールを使用し続けていく中で、
本格的に利用したいと思う人たちも多い。
そのような人たち向けに有料メニューを用意する。
利用者の数%が有料メニューに申し込むことを想定して
構築されたビジネスモデルなのだ。この手のツールやソフトは、
いまや数多く登場している。「Evernote」は
そのビジネスモデルで成功をおさめる企業のひとつであり、
2012年12月にはビジネス向けのサービスの提供を開始した。
利用者の外部記憶装置として最適なツールであるが、
肝心の情報を溜めすぎても意味がないことを最後に指摘しておこう。
検索性が優れているので、膨大な情報を溜め込んでも、
苦にならないツールではあるが、情報は使わなくては意味がない。
メモ代わりのツールならば、そのメモを読み返す習慣を
身につけなければならない。
「Evernote」は便利で、パフォーマンスも抜群である。
しかし、そこを履き違えると、巨大なゴミ箱と化してしまう。
「記憶より記録」。そのことが理解できる、目的意識の高い人たちに
とっては、便利この上ないツールといえるだろう。
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(近藤 昇 著 2015年9月30日発刊
『ICTとアナログ力を駆使して中小企業を変革する』
第5章 エスカレートする情報過多と溺れる人間
-Evernote(エバーノート)はパフォーマンス抜群 より転載)