[本文引用]
当社は、東南アジアへの農業支援を手掛けている。それだけに現在の日本の農業の
向かう方向に対してさまざまな情報収集を行い、支援活動に役立てている。
まさに日本の農業問題は国レベルの最優先課題のひとつである。
今までの政治家の票田確保と密接に絡んだ補助金政策ではなく、
ようやく本気で日本の農業を強くしようという空気が感じられるようになった。
とりわけ、TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)が始まりそうな動きの中、
世界にも伍していけるプロ農家の育成は急務だ。
とはいえ、ビジネスパーソンや消費者の立場から見ると、まだまだ関心が低い。
しかし、ビジネスの世界では実際に変革の予兆がある。ここ数年で農業経営を
手掛ける経営者とも数多く知りあった。新たに農業ビジネスに参入する
大手企業、中小企業、ベンチャー企業が有望産業の担い手として、
メディアなどに取りあげられるケースも増えてきた。
いずれにしても、まずはこういう革新的な動きが目立つことは良いことである。
このような潮流も影響しているのだろうが、国内では農業の六次産業化一色である。
農業ビジネスに関わる多くの人が、猫も杓子も六次産業化を声高に叫んでいる。
農水省も六次産業化ファンドを創設し、支援に乗り出した。
食品加工メーカーや大手コンビニの農業参入であれば、食に関連しているので、
自然に受け止められるが、大手ゼネコンが農業に参入と聞けば、一般人は驚くだろう。
ビジネス的には裏でなにがあるのか知りたくもなるのは当然だ。
21世紀の有望産業のひとつとして注目される中、儲けの匂いにつられて
参入する者も少なくない。補助金やファンドなどお金の匂いがすると
嗅覚の鋭い人は集まってくるものだ。
一方で、まだまだ少数派といえるが、根本的な改革を目指す人たちがいる。
ここにおおいに期待したいところだ。本気で国の未来の食糧安保と子供たちの
未来を考える。自国での食料確保なくして、安心・安全の生活は保証されない
という現実を受け止め、なんらかの貢献を目指している経営者たちが代表選手だ。
彼らは、たんなる金儲け主義ではない。
真剣に顧客の健康のことを考え、安心・安全を本気で志向している。
また、農家の二世三世にも衰退産業の農業を再生するべくプロ農家として
頑張っている人もいる。日本の農業ビジネスのあるべき姿は、
いまだに不明瞭ではあるが、農業の再生に向けて有志たちの試行錯誤が
始まっているのは間違いない。
だからこそ、こんな未来有望な農業ビジネスをICT業界が
ほっておくわけがないのだ。
農業とICTというと、昔からよく使われてきたアナログとデジタルの
組み合わせの典型である。アナログ的な世界が大半の中小企業のICT化活用を
支援してきた私でも、農業とICTはあまり関係ないと思ってしまう。
実際は、ICTが貢献する部分は少なからず存在する。
例えば、植物工場だ。センサーや温度計などを配置して、刻々と生産現場を
モニタリング、生産をコントロールするしくみだ。今はやる気になれば、
ベトナムのいちご栽培の植物工場の散水を日本からタブレットで
操作することができる。ICT活用のわかりやすい事例といえる。
もうひとつ、ICT活用が有効な分野がある。野菜や魚のトレーサビリティだ。
鮮度管理と生産者の顔を消費者に見せることで安心・安全を担保する。
ここでもICT活用がキモになる。例えば、ICタグが使用され、
センサーと連動し、産地、原材料の管理が行われる。
しかし、このようなICTが本質的な日本の農業の問題解決に
貢献できるわけではない。日本の農業の衰退の最大の原因は、
農業従事者の減少と彼らの超高齢化である。
いくら、アジアから農業研修生が来日しても追いつくものではない。
植物工場やロボット化が進むとはいえ、この巨大な農業産業の維持発展に
必要な貢献は難しい。
そこで、現実的な解となるのが、当社が推進しているアジアの現地と
日本の協業による農業ビジネスの展開である。
拙著『アジアで農業ビジネスチャンスをつかめ!』(2010年4月・カナリア書房)
に詳しく述べているが、ベトナム、カンボジア、ミャンマーなどの国は、
アジアで先進国と同等の地位を築いた日本からの農業指導を待っているのだ。
品質確保、農薬管理、商品開発、ブランド化など必要とされている技術や
ノウハウは多岐にわたる。鮮度の高い質の良い野菜などを流通させる
物流のノウハウも必要だ。そして、日本では当たり前のことで気づかないが、
コールドチェーンの実現は大きな食料流通の改革になる。
物流の整備は、東南アジアでは農業、漁業、食関連の大きな課題のひとつだ。
これは見方を変えれば、日本の企業にとっ