[本文引用]
私は時々、満員電車に乗る。しかし、最近は好んで乗ることはない。
できるだけ避けたいものだが、お客様とのアポイント次第では、
東京などでは避けて通れないこともある。
さすがに常に満員電車で通勤しているわけではないので、
おしくらまんじゅう状態に遭遇することは年に1回あるかないか。
それでも若いころのサラリーマン時代が蘇る。
新入社員の頃、大阪の地下鉄御堂筋線の満員電車も凄かった。
通勤していた数年間、よく耐えれたものだ。建設現場の現場監督に
なるつもりだった私には、この満員電車は青天の霹靂に近かった。
今、新興国を中心に海外と日本を往復していると、ことさら
日本のビジネスパーソンは幸せなのだろうかと思う。
日本で働く人の全員が通勤の満員電車で苦労しているわけではないが、
外国人から見たら、日本という国はとても不思議な国に映るだろう。
海外でも、日本の映像として駅員が電車に乗客を押し込む映像が
よく使われている。日本すべてがそうではないが、この日本の印象は
海外の人の脳裏に焼きつく。
そんなことを考えながらあるキーワードが浮かび、
ふと、インターネットで『痛勤電車』とキーボードを打ってみた。
検索すると色々と類するページが見つかる。
「電車痛勤あるある」こんな本も見つかった。
さっそく、購入してみようと思い、ほしいものリストにも入れておいた。
30年近く働いていると、若い頃の『痛勤電車』と今の『痛勤電車』の
様子が違うのがよくわかる。おしくらまんじゅう状態ではさすがに
難しいが、それでも車内で周りを見渡すと、結構な人がスマホを
いじっている。わずかな隙間で、メールを見たりSNSを操作したりと、
とてもけなげにも思うし、切なくも思う。かくいう私も、急ぎの時は
メールチェックはしてしまう。前出の書籍の表紙にも出ているが、
海外から見た日本のイメージそのままだ。特に東南アジアなどは
電車がまだまだ充実していない。あるいは、まだ電車すらない
場所の人たちから見たら、日本の都会では一体何が起こっているのかは
理解できないだろう。異次元の世界に映るのではないか。
満員電車にスマホは本当に異常な光景だ。日本がいくら狭いといっても、
地方に行けば実感するが日本は実はとても広い。
スペースなどいくらでもある。「なんでわざわざ満員電車の隙間なの?」
と言いたくなる。昔は新聞をいくつにも折り込んで読んでいる人もいた。
今にして思えばこれは微笑ましい光景だった。
今や多くの仕事がAIで入れ替わろうとしている時代だ。
悲観することではなく、より人間らしい仕事に専念できると思えば、
ICT社会で暮らすのも必ずしもマイナスでない。
大切なのは、人間らしくあることに貪欲にそれを追求することだ。
あと数年から十数年もすれば、この変化が現実味を帯びて
多くの人々が実感するだろうし、恩恵を受けるだろう。
そんなときも、日本のこの『痛勤電車』は残っているのだろうか?
ビジネスには企業やテーマの大小ではなくイノベーションは欠かせない。
特に生活の現場で不便を感じた際のちょっとしたアイデアなど
さまざまなサービスや商品が生まれる。これが主婦目線や現場目線だ。
これからはシニアの目線もとても重要になるだろう。
つまり、アナログ的な場所が求められるのだ。
例えば、『痛勤電車』のつらい空間をやわらげるためにスマホが
貢献しているといえば、決して否定はできない。
しかし、多くはスマホでゲームに興じている。しかも満員電車で、だ。
首都圏の光景に慣れた人には違和感はないのであろうが、
新興国から見たら驚きだ。トランジスタ・ラジオなどを生み出す
ミクロにこだわる日本人の特性といえば良いのだろうか?
こんな辛い限られた空間では何か改善しようにも限界がある。
2016年6月9日の日本経済新聞一面にこんな記事が掲載された。
トヨタ自動車が総合職の在宅勤務を始めるという記事である。
国の思惑と歩を合わせた記事だと解釈はしているし、
この手のニュースは最近では珍しいことではない。
AIで置き換わる仕事の話に比べたら、単に働く場所が
変わるだけのことだ。実際、オンラインというICT環境の
ひとつを使えば、都会のオフィス内で皆が集まって仕事すること
と比較しても、できないことはほぼない。少し先進的な企業なら
誰もが知っていることだろう。しかし、実行している企業は
感覚的には全体の1%にも達していないのではないか。
こういうものは流行に乗って、移行が本格的に始まれば速い。
パソコンやスマホなどもそうであったように。
在宅勤務は世間ではテレワークと呼ばれるケースが多い。
私達はオフィス外勤務という意味を含めてオンラインによる
ビジネスのひとつと捉えている。もっとも10年先ぐらいに
当たり前になった時にはオンラインとわざわざ明示することも
なくなるだろう。快適に働くぐらいの意味しかなくなるはずだ。
そこで、先ほどの『痛勤電車』のことと重ねて考えてみる。
普通に考えれば、『痛勤電車』は自然的に消滅する。
しかし、経済や行政の理屈ではそう簡単には事が進まない。
まず、電鉄会社の反対が起こるだろう。収入源の大半が
消えるのであるから。当然、さまざまな利害関係者が
既得権益を守るために抵抗するだろう。
別に日本が特別な国なのではなく、世界中、洋の東西を問わず、
一部の人は今の状態を守り、権益を維持したがるものだ。
特に大企業はそのしがらみの中で身動きが取れないケースが多い。
だからこそトヨタ自動車の記事はインパクトがある。
在宅やオフィス外勤務はどこよりも早く、私達も当たり前に
実施している。お客様にも機会があるたびに提唱している。
オフィスにいないとできない仕事は、日増しに減っている。
『痛勤電車』でスマホに癒されている首都圏のビジネスパーソンを
幸せに