[本文引用]
2016年1月5日の日本経済新聞を見て時代の変化を実感した。
掲載されていたのは、恒例となった年頭のトップ挨拶。
そのキーワードとして『革新』が目に入る。
併せて「海外」「法令遵守」という言葉が並ぶ。
たしかにこの3つのキーワードは現代の厳しい経営環境下における
大企業の課題が集約されているといえるだろう。
今や日本の家電系メーカーの不振は驚きではなくなった。
世界マーケットを俯瞰すれば、現状は惨敗だろう。
革新という言葉は一般的には「イノベーション」と同義語と捉えてよいだろう。
大企業も激変する経営環境の中、イノベーションが至上命題となっている。
その中でも重要な要素となるのが「海外」である。
いまさら言うまでもないが、マーケットが縮小する国内だけでは、
とても大企業の継続的発展はおぼつかない。
そして、日増しに要求が厳しくなる「法令順守」。
たしかに先進国としては大切なことである。しかし、今や世界の激戦区の
東南アジアで勝負するに足かせのひとつにもなりかねない。
将来のポテンシャルの高さと日本との親和性の高さで
もっとも注目されるマーケットのひとつが東南アジアである。
ところが、現地の視点で日本国内のビジネスを眺めるととても窮屈に感じる。
法令順守の上に、失敗が許されない現代の大企業にイノベーションが
起こせるのだろうか? ドラッカーは著書でこう述べる。
「イノベーションとは意識的かつ組織的に変化を探すことである」
つまり、この変化を察知して行動した者が生き残れる時代である。
日本国内は海外に比べるととても変化が少ない。
もちろん、少子化や高齢化の課題は顕在化しているが、
これは随分前からわかっていたことだ。
にわかに最近になって騒がれ始めたに過ぎない。急激な変化でもない。
日本は変化の少ない「先進国ボケ」の兆候に陥っている。
世の中の変化に気づかず、ぬるま湯につかっている状況。
そして、今、その下から轟々と変化の炎により、ぬるま湯が
熱湯に変わりつつある。日本人はようやく気づくのだろうか?
一方、海外、とりわけ新興国や発展途上国の変化は劇的だ。
併せて、地球全体を取り巻く問題は、複雑化し急速に深刻化している。
ビジネスだけで考えても、世界から見れば、変化はある
日思いがけないところから突然起こる。
最近、欧米などで盛んに使われだした経営のキーワードに
『ジュガードイノベーション』がある。
新興国などで生まれる商品やサービスのことである。
実際、私達のビジネスの主要拠点であるベトナムでも
その兆しはいくつもある。例えば、ロボット開発。
先進国や日本の専売特許と思いきや、すでにベトナムでも
開発が始まっている。しかも、工業用ではなく家庭用のロボット開発だ。
日本は、高度経済成長期から「高機能・多機能・高品質」の
商品開発を追求し続けている。これは一見、イノベーションといえるが、
マーケットとミスマッチが起こりだすと単なる足かせにしかならない。
携帯電話に代表されるように、日本人しか必要としない機能などは
たくさんある。日本の商品の大半は先進国でしか通用しないのは
なぜなのか?顧客の満足を逸脱したビジネスがいつしか
日本で広がり始めている。そもそも必要のない機能を、
さも必要性があるように飾り立てて売りさばく。
複雑化、巧妙化するICTが重なってくるとますます、
この傾向に拍車がかかるだろう。「法令順守」と「革新」の
ふたつのキーワードの両立は極めて難しい。なぜなら、
イノベーションとは失敗の連続の中で、ある日突然、
光明を見出すものだからだ。では、中小企業はどうか?
大企業のように窮屈な経営環境ではないぶん、動きも身軽だ。
もともと商売のサイズが小さいので、自社の商品を侵食する
カニバリゼーション(共食い)も起こらない。
中小企業が大胆に行動すれば、国内外でジュガードイノベーション
(新興国特有の市場環境で開発された商品・サービスなど)の
主役になれる時代だ。
わかりやすく考えるために、アフリカにおけるビジネスを考えてみよう。
あくまでも考察なので、治安などのマイナス要素やリスクは排除している。
生活環境的には、日本の戦前の田舎と一緒と考えてよい。
ちなみに、東南アジアは終戦直後の日本ということになる。
ところが、この両エリアともすでにインターネットが
つながる場所である。アフリカは衛生・食料・水など数多くの課題が
山積している地域が数多くある。
私達のスタッフも国際協力機構(JICA)の民間連携による
海外青年協力隊の一員としてウガンダに赴任している。
赴任地は首都からは車で3~4時間ほどの現地で水の防衛や
農業指導などをしている。実はこのウガンダからでもスカイプで
顔を見ながら日本と打ち合わせもできるのだ。
こういう場所で、日本が貢献できることはいくらでもある。
昔のノウハウやカイゼンのプロセス、それと起業家精神。
これは中小企業がかつて実践してきたことである。
井戸を掘る技術ひとつ伝授するだけでも、現地の生活様式は進化を遂げる。
進化の過程は、いつか日本が辿ってきた改善の道と重なる。
今の日本には存在しない新市場が広がっている。
今の日本からするとアフリカは極端な事例かもしれないが、
身近な東南アジアでは、中小企業が現地企業と組めば
あらゆるところに「イノベーション」の機会が転がっているのだ。
――――――――――――――――――――――
(近藤 昇 著 2016年10月15日発刊
『もし、自分の会社の社長がAIだったら?』
PARTⅡ 企業経営への提言
-【提言15】中小企業がイノベーションで変革するチャンス より転載)