[本文引用]
職人と聞いて、皆さんはどんなこと思い浮かべるだろうか?
頑固、こだわり、プロフェッショナルな人、匠の技、日本の宝・・・
私は子供のころは職人にとてもあこがれた。
特に大工さんや左官屋さんなどの建築職人を身近で見る機会が多かったので、職人といえばまっさきに彼らの格好いいニッカポッカの姿が浮かぶ。
小学校の頃、近所の家の新築の現場や建設の工事現場を眺めていて、自分で無性に作りたくなった。母屋の庭先に、廃材を集めて3階建ての小屋も作った。
だから、中学生の時、私は大工になると公言していた。
私は農村で生まれ育った。
周りには農家をする人たちが沢山いた。
その頃は、農家の人を職人という意味で考えたことはなかったが、今になってみるとその方々は間違いなく農業の職人だ。
アジアなどの新興国で長年ビジネス活動していると、様々な現場で日本の職人の価値を再認識することが多い。
もう15年前の話だが、ホーチミンで有名なドンズーの日本語学校の校長(創業者)と日本の職人の話で盛り上がった。氏は、日本でしばらく住んだことがあり、日本の内装の精緻さと美しさをとても賛美されていた。
“こういう仕事が出来る日本の職人はすばらしい。近藤さん、ぜひ日本の職人の技をベトナムに伝えるような活動をしてほしい”
私はその時以来、このことをど真ん中において新興国で活動してきた。
話は変わるが、中国や韓国の製造メーカーの発展には、元日本メーカーのエンジニア達がかなり貢献している。技術の流出と危機感を持つ人も多いが、もはやこの流れは止めることもできない。良いものは先進国から新興国へ伝わっているのは自然だと思う。
実際、私も、ベトナムの建築工事の現場に、日本の鉄筋工のベテラン職人を派遣して、ベトナム人の職人の卵に現場指導してもらったことがある。
私は、こういう新興国のニーズは常々感じているが、如何せん、日本の職人があらゆる分野で激減している。
分野問わず日本の若者を職人の世界に呼び込もうという活動は色々とおこなわれてきた。
しかし、現実は厳しい。今の若者があこがれる世界ではないし、そもそも、若者の総数が不足している。このままでは、日本の職人の世界の存続が危うい。少子高齢化の影響をダイレクトに受けている。
IT化やロボット化でなんとか代替えする世界ではない。人が長年鍛錬して身に着けた技や知恵に価値があるのだ。
何事もそうだが、外側からは物事の本質が良く見える。日本の事を好きで研究熱心な外国人は、日本のこの職人の世界にとても関心を持つ。自らが、職人の世界に飛び込む人もいる。
こういう方たちには大いに期待したいし、新興国との共生を目指す私としては、彼らにもっとそういう機会を提供したい。
しかし、如何せん、膨大な数の職人が高齢化と共に消えていく日本。私は、日本の職人が消えてしまったら、高価値のモノづくり日本は過去のものになると憂えている。
日本の職人の技を海外にも伝授したいところだが、そんな簡単には出来ない。
未だに経験と勘と度胸の世界でもある。
今更、海外に背中を見て覚えなさい。では時代遅れである。暗黙知の世界をできるだけ形式知化する方法は、今どき幾つもある。
一つは動画で残すというのも有効だ。ITの使い方次第で工夫は幾らでもある。今、動画で匠の技などを配信する機会が増えてきた。これはこれでとても良い方向だと思う。
一方で、職人の仕事の存在と価値、モノづくりの仕事の意義をもう一度、日本の全世代に知ってもらう必要があると考える。
そういう意味では、私が最近読んだ本では、白鳥美子さんの“大工の棟梁に学ぶプロジェクトマネジメント”はお勧めだ。職人にフォーカスした書籍も